先日、私が担当しているトレーナー養成スクールで、2025年10月から半年間指導してきた生徒の皆さんが卒業を迎えました。

学生から社会人まで、それぞれ背景は異なりますが、多くは自身のトレーニング経験こそあっても、解剖学、運動生理学、バイオメカニクスといった基礎学問を体系的に学んだことのない状態からのスタートでした。

当初は、筋肉の起始・停止、重心、支持基底面といった基本的な概念も馴染みのない状態でした。しかし最終試験では、クライアントの骨格や運動機能を評価し、適切なプログラムを立て、介入し、その結果を検証するところまでできるようになっていました。

4名の生徒さまの成長を見ながら、改めて「トレーナーという仕事の在り方」について考えてみました。

一般の方がイメージする「トレーナー」とは、名前の通り、トレーニングを教えてくれる人という認識が強いのではないかと思います。つまり、正しいフォーム、器具の使い方、重量設定、追い込み方など、いわゆる「筋トレのやり方」を教える人、というイメージです。

もちろん、それはとても大切な役割です。トレーニング経験のない初心者にとって、正しいフォームや器具の扱い方を知ることは、安全面でも効果面でも欠かせません。

ベンチプレス、スクワット、デッドリフト、ラットプルダウンなど、一般的によく知られている種目には、いわゆる「正しいフォーム」とされる型があります。そこから大きく外れてしまえば、狙った筋肉に十分な刺激が入らなかったり、一部の関節に過剰な負担がかかったりして、怪我のリスクも高まります。

だからこそ、一般のトレーニー同士で交わされる「このフォームだと効く感じがする」といった感覚的なアドバイスよりも、トレーナーが教科書的な知識に基づいて指導する「正しいフォーム」の方が、安全かつ効率的であることは間違いありません。

しかし、本当に大切なのはその先です。

一歩進んで、「この人の身体や動きの質を評価すると、この要素が不足している。だから今はこの種目を選ぶべきだ」と、個別性を踏まえて種目を選択できる指導者は、実はそれほど多くありません。

現場では今もなお、「筋肉を鍛えて基礎代謝を上げることが大切だから、ベンチプレス、スクワット、デッドリフトのような大きな筋肉を使う種目をやりましょう」といった指導が主流です。

それ自体が間違いというわけではありません。ただ、そもそもこれらの種目は、一般の方がいきなり正しく行えるほど単純なものではないのです。

呼吸は適切にできているか。腹圧をコントロールできるか。その状態を保ったまま四肢を動かせるか。各関節の可動域は適切に保たれているか。自分の身体や重心の感覚を知覚できているか。各部位のスタックは適切か。

高負荷のトレーニングを安全かつ効果的に行うためには、実に多くの要素を見なければなりません。

お客様の主訴、つまり悩みや目的に対して、客観的な視点で問診し、観察し、評価し、仮説を立て、実際に介入し、その結果を検証する。この一連の流れを持てることこそ、本来のトレーナー、そして運動指導者に求められる姿だと私は思います。

たとえば、「腰が痛い」と訴える方に対して、いきなり腰をマッサージする。肩や首がこっているからといって、すぐに肩甲骨周囲をほぐす。こうした対応は、一見すると適切に見えるかもしれません。

しかし実際には、主訴に対して反射的に介入を当て込んでいるだけで、その前提となる情報収集も、評価も、仮説もありません。これでは、当てずっぽうの指導です。たまたまうまくいくことはあっても、再現性のある指導とは言えません。

「腰が痛い」という主訴に対して本来必要なのは、まず情報を集めることです。

問診では、「いつから痛むのか」「どのような動きで痛むのか」「どのような痛みなのか」「痛みの強さはどの程度か」「時間帯による変化はあるか」「仕事中はどのような姿勢が多いか」といった情報を確認します。

観察では、「立位姿勢はどうなっているか」「股関節や脊柱の動きはどうか」「重心移動は適切か」といった点を見ていきます。

そうして集めた情報をもとに評価を行い、「考えられる原因は2つある。そのどちらがより関与しているかを確かめるために、この介入を試してみよう」という思考プロセスに入るべきです。

SNSで流行している種目をそのまま真似しても、効果が出ない人が多いのは当然です。その種目が自分に合っているかどうかを判断する過程が抜け落ちているからです。

実際には、派手な種目よりも、地味な種目の方が身体を変えることは少なくありません。なぜなら、その人の課題に合った介入は、見た目の華やかさとは無関係だからです。

トレーナーとは、単にトレーニングを教える人ではありません。身体を見立て、問題を整理し、仮説を立て、最適な介入を組み立てる人です。

こうした思考のフレームワークを持つトレーナーが増えていけば、世の中の「トレーナー像」はもっと良い方向に変わっていくはずです。

今回、生徒の皆さまの成長を見ながら、そんなことを改めて感じました。