前回の記事で使える筋肉、使えない筋肉という概念について書きました。
今回はもう少し踏み込んで、
ウェイトトレーニングで筋肉を鍛えることと、競技としての動作の関係性を書いていきます。
前回の記事のまとめ
- 筋肉自体に「使える筋肉、使えない筋肉」という概念はない
- 筋肉の違いを挙げるとすれば速筋、中間筋、遅筋という筋繊維の種類の違い
- 「使える、使えない」が判断される要因は筋肉量の違いよりも「その動作をいかにうまく行うことができるか」という点
Contents
競技パフォーマンス向上の原則
下図のピラミッドをご覧ください。
競技パフォーマンスの向上のためには、
- 基礎体力・パワーであるベーシック
- ベーシックで鍛えたフィジカルと競技動作を繋ぐスペシフィック(特異動作)
- 実際の競技動作であるスキル
の3つを鍛えていく必要があります。
例えばウェイトトレーニングで筋力を鍛えてベーシックのみを向上させても、実際の競技(スキル)練習を怠った場合、高いパフォーマンスは発揮されません。
前回の記事で書いた通り、その競技の動作がうまく行えない事で、せっかくの筋力をうまく使いこなせていないのです。
野球の例でいくと、
- 早い球を投げられる筋力は持っているのに、下半身の力をうまく上半身に伝えられないフォーム(動作がうまくない)のため球速が伸びない。
- 打球を遠くに飛ばせる筋力を持っているのに、手打ちになって(動作がうまくない)打球が飛ばない
などが挙げられます。
反対に、競技の練習をたくさん行って競技動作は向上したが、ベーシック(基礎体力・パワー)を鍛えない場合はどうでしょうか?
どんなに競技動作がうまく行えても、ベースのパワーが無ければパフォーマンスは頭打ちになってしまいます。
再度野球の例になりますが、投球動作で下半身の力を上半身に伝える際には、軸足の踏ん張りと蹴りが重要になります。
この「踏ん張り」と「蹴り」も、一定以上の筋力が無いと力を発揮することができません。
パフォーマンスの高い甲子園常連校の選手や、プロ野球選手は積極的にウェイトトレーニングを行っています。
確かに細身の人でも打球を遠くに飛ばしたり、早い球を投げる選手はいます。
しかしどんなに良い選手でも、筋力トレーニングや基礎体力向上のトレーニングを行わずしてトップレベルにいる人はいません。
またこちらも前回の記事で書きましたが、細身でも高いパフォーマンスを発揮する選手は、神経系の機能が高いことも考えられます。
これは持っている筋繊維の中で、脳からの信号があった際にいかに多くを動員することができるかです。
- A:筋肉量100 脳からの信号で働く筋繊維の割合50%
- B:筋肉量50 脳からの信号で働く筋繊維の割合100%
この場合、Bの選手は見た目は細いですが、100の筋肉量をもつ選手と同じパフォーマンスを発揮します(動作が全く同じと仮定した場合)。
長くなりましたが、パフォーマンス向上のためには基礎体力であるベーシックを鍛えること、実際の動作であるスキル練習をすること、これら2つを繋ぐスペシフィックトレーニングを行うことが重要になります。
筋力トレーニングと競技動作の違い
また、ベーシックとスキルを繋ぐスペシフィック動作がなぜ重要なのかを説明するために、
ここで補足として筋力トレーニングと競技動作の違いを書いていきます。
筋力トレーニング:身体にとっていかに効率悪く動作を行うかが重要
筋力トレーニングでは筋肉量及び筋力向上を図るために、いかに筋肉に負荷を与えるかがポイントになります。
筋肉に負荷を与えるという事はつまり、身体にとっていかに効率悪く動作を行うかということです。
日常生活において我々の身体は、自然と筋肉に負担がかからないような効率の良い動作を行っています。
例えば朝起きてベッドから起き上がるとき、仰向け状態から横向きになり、手を着いて上体を起こしていきます。
手を使わず腹筋だけで起き上がる人はなかなかいないですよね?
この様に、なるべく筋力の消耗を防ぐために自然と全身を使って力を分散させています。
しかし筋力トレーニングの場合は狙った筋肉に負荷を与えることが目的となります。
上記の例だと手を使わず腹筋のみに負荷を与えながら、ゆっくりと起き上がっていきます。
アームカールという種目の場合、上腕二頭筋のみに負荷を与えたいので、上体の反動や膝のクッションを使って行ってはいけません。
これは身体における動作としては非常に効率が悪いと言えます。
競技動作:身体をいかに効率的に動かすかが重要
反対に競技においては、いかに全身を使って効率よくパワーを生み出すかがポイントになります。
アームカールを行う場合は(競技においてアームカールの動作はほとんどありませんが、あくまで例として)、スタートの状態で膝を曲げて上体を少し前傾し、下半身のバネを使って重りを持ち上げればはるかに楽に重い重量が持ち上げられます。
競技動作は主にこの様に、全身を使って爆発的にパワーを生み出す動作がメインとなります。
筋力トレーニングとは動作の目的が違うのです。
ベーシック向上のトレーニングのみではスキルのパフォーマンスが落ちる可能性がある
ここでスペシフィックトレーニングがなぜ重要なのかという話に戻ります。
前述の通り筋力トレーニングは効率の悪い動作、競技動作は効率の良い動作と書いてきました。
筋力トレーニングはパフォーマンスピラミッドにおけるベーシックを鍛えるもので、非常に重要なのですが、これによってスキルの低下が起こる可能性もあるのです。
筋力トレーニングは効率の悪い動動作です。こればかりを続けていると、身体が効率の悪い動作(単体の筋肉に負荷を与える動作)に慣れてきてしまうのです。
これを防ぐために、ベーシック鍛えた筋力をスキルの向上に繋げるために、スペシフィックトレーニングを行うのです。
スペシフィックは特異性という意味で、スキル動作に近い動作でトレーニングを行うことを指します。
先ほどのピラミッドでは野球の例でシャドウピッチングと記しました。
シャドウピッチングとは、タオルを持ちながら実際の投球動作を行う練習です。
これにより筋力トレーニングで鍛えた筋力を効率良く使えるようにするために、動きの連動を身体に覚えさせていきます。
終わりに
最後までお読みくださりありがとうございます。
使える筋肉、使えない筋肉という話から、競技パフォーマンス向上のための話まで発展してしまいました。
しかしここまで書いてきた様に、パフォーマンスは「筋トレをすると使えない筋肉が付く」とかいった筋肉による要因ではないということです。
パフォーマンス向上にためには、
- スキル練習は必須
- ベーシックの筋力を向上させたらスペシフィック動作で動きを覚えさせる
といった事が必要です。
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